マイナー定跡への誘い Budapest Gambit①
今回は久しぶりに定跡の記事を書こうと思います。SNSを見ていると、時々使用する定跡についての議論が見られますが、皆さんは何を指しますか?ルイロペス、シシリアン、イングリッシュ、カロカン…、どの定跡がメジャーかマイナーかは議論があると思いますが、私は比較的マイナーな定跡や変わったサイドラインを指すのが好きです。あくまで私程度の愛好家レベルでの話ですが、マイナー定跡を指すメリット、デメリットとしては、
- 覚えなければいけないラインが少なく、楽なことが多い。狙いも安直でわかりやすいことが多い。
- マイナー故に、相手が深く研究している可能性は低く、局面的にも心理的にも有利に持ち込める可能性がある。
- 毎回やっていると対策されやすい。基本的にはあまり良くないポジションになるので、勝率は悪い。
- 強い人に「もっとちゃんとした定跡を研究した方がいいよ」とたしなめられそう。
さて、今回はBudapest Gambitを取り上げたいと思います。1.d4 Nf6 2.c4 e5!ですね
ぱっと見、意味のわからない手ですよね。ピースを展開する上でeポーンを出すのは大事な手になりますが、こう出してしまうと、dxe5と取られてしまいますし、白にとっても取らなければ、そのまま中央に黒ポーンを残す形になり、黒の威圧に屈した形になりますので、普通は取ります。
・統計的なこと
手元にあるMega Database 2021で検索してみたところ、Budapestの1322ゲームの結果は、白勝ち:573 (=43%), 引き分け: 459 (=35%), 黒勝ち: 290(=22%)ということで、黒の平均勝率39%と比較して、大分劣るという結果でした。かつ、近年ではブリッツなどで使われたものが多く、クラシックの試合では使われていないようでした。
有名なGMでこの定跡を多数用いているのはShakhriyar Mamedyarovでした。
・メインライン
いわゆるメインラインは3.dxe5 Ng4 4.Nf3 Bc5と進みます。Bc5という位置はポーンで狙われやすく、不安定にも思われますが、f2を狙うことでe3とポーンを突かせ、白の黒ビショップの展開を遅らせる、将来的にe3のポーンを弱点とするという狙いがあります。このラインでは基本的にe5のポーンは回収できるので、マテリアルの心配はそれほどありません。
メインラインを指す上で重要なテーマが「a8のルークの活用」です。え??という感じですが、実際の棋譜を見て追っていきましょう。この試合は大会のエキシビション的な対局のようです。
□Cori,Jorge Moise (2671)
■Firouzja,Alireza (2702)
Hoogeveen m1 23rd Hoogeveen (6), 26.10.2019
1.d4 Nf6 2.c4 e5 3.dxe5 Ng4 4.Nf3 Bc5 5.e3 Nc6 6.Nc3 0-0 7.Be2 Re8 8.0-0 Ngxe5 9.Nxe5 Nxe5 10.b3 a5 11.Bb2 Ra6 aポーンを突いて、6段目を経由してルークをキングサイドに回すのがミソです。この形では、b3と突いているため、c5のビショップがポーンで攻撃されず、またすぐにf4と突かれる恐れがありません。
12.Qd5 Ba7 13.Ne4 Rh6 14.Qxa5 Bb6 15.Qa8 d6 16.c5? Qh4! 白からc5とついてブレークする手は時々ありますが、この状況では悪手でした。(16. Bxe5 dxe5 17.g3 = )
17.Bxe5 dxe5 18.f3? Qxh2+ –+ キングサイドを食い破られ、すでに黒勝勢です。
19.Kf2 Rg6 20.Rg1 Bd7 21.Qa3 Bh3 22.Bf1 f5 23.Qa4 Rd8?? 24.Rd1! Rf8 (Rxd1はQe8#)ここに来て黒に大きなミスが出ました。
25.Qc4+?(25. Ng5! Rxg5 26.Qh4 Bxc5 27.Bc4+ Kh8 28.Qxg5 +- ) Kh8 26.Qf7 Rg8 27.Ng5 Rxg5 28.cxb6 cxb6 29.Qc7 h6 30.Rd8 Qg3+ 31.Ke2 Rxd8 32.Qxd8+ Kh7 0-1
いわゆる「ルークリフト」がうまくはまった内容ですが、実際には白の応手次第で、d6であるとかBb6といった手が生じると6段目からルークをキングサイドに回せなくなります。また、c8のビショップの展開も悩みどころで、テンポを稼ぎながらタイミングよくキングサイドに向かう、もしくはh3のポーンを取るといったサクリファイスを行うなどのプランが必要です。
もちろんBudapestに対するほかの白の応手もありますので、もう少しそこら辺のことを第2弾の記事で書きたいと思います。 続く。
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