相手に反撃を許さない指しまわし ーグランドマスターの指し方ー
自分は、数年前からIM小島慎也くんにチェスの手ほどきを受けています。この年齢ですし、今からどうのこうのはありませんけど、自分が学生の時に、周囲にチェスの戦略など理屈を教えてくれる人は皆無でした。というか日本に一人もいなかったかもしれません。また、人の試合を並べるというのも苦手だったので、問題集を説くことで、勉強した気になっていました。結果的に、昔の自分のチェスはほぼ独学で、定跡とタクティクスのみで成り立っていたように思います。序盤、中盤でタクティクスが決まって駒得、もしくはメイティングアタックが成功すればいいのですけど、相手の狙いが読めなくていきなり負けてしまったり、気がついたときには自分の駒組みがバラバラ、みたいなことが多かったように思います。いわゆるポジショナルプレイが全くできていませんでしたので、そのあたりを教えてもらうのはとても新鮮な感じがしました。ただ、きちんと教えてもらったことを吸収できないといけないんですけど(苦笑)
さて、今日のレッスンでは、相手にプレイをさせない、反撃を許さない好例の試合を見せてもらいました。黒のMamedyarovはアゼルバイジャンのGMで最近レイティングを伸ばして2800台に乗せ、現在はCaruanaを抜いて、世界2位につけています。なかなか感慨深かったので、復習を兼ねて記事にしてみました。途中は飛ばして、見せてもらった局面から始めます。
□David Howell(2644)
■Shakhriyar Mamedyarov(2768)
World Rapid Championship 4.12 2016.12.26
1. e4 c6 2. Nf3 d5 3. Nc3 Bg4 4. h3 Bxf3 5. Qxf3 e6 6. g3 g6 7. Bg2 Bg7 8. O-O Ne7 9. d3 O-O 10. Bg5 Nd7 11. Rae1 d4 12. Nb1 h6 13. Bc1 c5 14. Qe2 Rc8 15. h4 h5 16. Nd2 b5 17. Bh3 c4 18. Nf3 Qa5 19. a3 Qa4 20. Bg5 Nc6 21. Rc1 c3 22. bxc3 dxc3 23. Ra1 Nde5 24. Rfc1 Nxf3+ 25. Qxf3 Kh7 26. Be3 a6 27. Kh2 f5 28. exf5 exf5 29. Qf4 Qxf4 30. gxf4 Rfe8 31. Kg3 Re6 32. Bg2 Nd4 33. Bxd4 Bxd4 34. Re1 Rce8 35. Rxe6 Rxe6 36. Bf3 Bc5 37. a4 b4 38. Rb1 a5 39. Kg2
この時点で、コマ割りは互角ですが、黒が優勢なのは、大体の感覚でもわかると思います。ポイントとしては、
- 白はダブルポーンがあり、ポーンストラクチャーでかなり劣り、f,hポーンを両方守るのが難しい。
- 唯一のオープンファイルであるeファイルを黒はルークで抑えている。
- 黒はb3と突き捨ててcポーンを進めるプランがあるので、白はbファイルからルークを動かしにくい。
- 黒のキングはh7にいて、まだ前線には出ていない。
39. … Kg7[eファイルへのルークの侵入を押さえる意味でも、まずはキングの位置を改善します。] 40. Kg3 Bd4!?[私が考えたプランはRd6→Rd4→Bd6でf4のポーンを取りに行く手で、Stockfishで解析してみても、この手がベストと出るのですが、白からBe2やRe1などの手を指されたときに、間違えると、紛れが生じる可能性があります。Bd4と抑えてしまうと、d4と突かれる手もなくなり、白は手も足も出ません。]
41. Kg2 Kf8 42. Kg3 Ke7 43. Kg2 Kd6 44. Kg3 Kc5 45. Kg2 Rb6?! 46. Rb3 Rd6 47. Rb1 Re6[結局、ルークでeファイルを抑えるために戻しました。] 48. Kg3 Bf6 49. Kh3 Kd4[こうなってしまうと、ほとんどツークツワンクのような状況で、白はe2にルークを侵入させないために、ビショップも動かせませんし、f4を狙われると、キングも動かせなくなってしまいます。]
50. Kg3 Bd8 51. Kg2 Bc7 52. Kg3 Bd6 53. Rc1 b3 54. cxb3 Ba3[プロモーションを止めるためには駒損が避けられません。] 0-1
ちなみにこの試合はラピッドで、終盤はお互いあまり時間が残っていなかったと予想されます。ベストムーブを探すのは大事なことですが、それで複雑な変化を選んでしまうと、思わぬ反撃受け、ミスや時間落ちを招く可能性があります。本譜のような変化であれば、白からの反撃がなく、途中で1手間違えてもやり直しがききそうな感じです。まあ、こういう状況にきちんと持って行くのがまず難しいですけど、ね。
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